本当にあった怖い話(ゆきち談)

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あれは何年前のことだったろうか。

正確にどれくらい前かということも覚えていないし、どんな季節に起きたことかなども覚えていない。

ただ、あの日、住んでいたアパートで起きた出来事の「怖い」っていう気持ちだけは鮮明に覚えている。

 

その日僕は、家のトイレの電球が切れていたことを思って、電球を買って帰ったのだった。

トイレには小窓はあったけれど、電気が点かなければ昼間でも薄暗く、夜はもちろん真っ暗になる。

家のどこの電気が点かないと不便かと言ったら、トイレを思い出す人は少なくないだろう。

 

怖がりの僕は、夜にトイレに一人で行けなくなったら大変だと思い、家に着くなり玄関のすぐそばにあるトイレの電球を換えようと思った。

大丈夫、まだ夕刻。

子供達が友達に別れを告げて、大好きなお母さんの作る美味しい夕飯の匂いに包まれるお家に帰る時間だ。

 

かたやトイレの僕様。

 

便座に乗っかって換えてやろうか。

少しだけそんなことが過ぎった。

けれど、便座に全体重を掛けてはいけないし、そもそも便座は踏み台ではないのだ。

 

では便座を上げて便器に直接乗るというのはどうだろうか。

裸足で乗ればペタペタとして乗りやすそうなものだが、いや、それはやめておこう。

 

いっそウッディみたいにトイレットペーパーを敷いて乗るか。

いや、ツルッと滑ってケツからドボンとしたら、笑い話にもならない。

場合によっては助からないかもしれない。

 

そんな様々な分岐ルートをシミュレーションした結果、潔く脚立を使うことにした。

それで間違いないと思った。

 

リビングに行き、クローゼットに仕舞われていた脚立を取り、トイレに向かう。

片手で担がれた脚立は、僕の意思に反して、あちこちにぶつかりながら付いてくる。

 

交換完了。

 

一仕事終えた僕はリビングに戻り、くつろぐことにした。

何をしてくつろいだかは、一切覚えていない。

 

ただ、便意を催したことだけは間違いなく覚えている。

僕はさっき電球を換えたばかりの、ひときわ明るいトイレに行くことにした。

 

リビングを出て、もう目の前にはトイレのドアがある間取りだから、大丈夫、どう転んでも催しには間に合う。

そう気が緩んだときだった。

 

ガッ

 

トイレのドアの取っ手に手を掛けると、いつもなら抵抗もなく下に下がる取っ手が、なぜか下がらなかった。

 

見てみると、トイレの鍵が掛かっている。

 

なんだ、誰か入ってるのか?

 

いや

 

 

 

 

 

 

 

誰だ?

 

 

 

 

 

 

 

さっき確かに僕はトイレに入って電球を換えた。

だから、もし誰かが入ってるとするならば、僕がリビングでくつろいでるうちに入ったことになる。

 

玄関のドアを見てみると鍵がちゃんと掛かっている。

いや、自分が帰ってきたときには鍵を掛け忘れてて、誰かが入ってきたタイミングでそいつが鍵を掛けた可能性もある。

 

いや、今はそういう話じゃない。

 

一体誰がこの中にいるんだ?

 

一瞬でいろいろなことを考えながら僕は、半ば無意識にノックしようと手を挙げる。

でも中から知らないおっさんの声が聞こえてきたら、便意を催していた僕はリアルに失禁を禁じえないと思った。

 

とにかく落ち着こうと、一旦リビングに引っ込むことにした。

 

なんだ、誰だ。

誰ならなんだ。

仮におっさんが入ってきたとして、入って直でトイレ使うってなんだよ。

こちとら便意催してるんだよ。

 

しかしどれだけ考えても仕方がない。

僕は意を決して、とりあえずノックしてみることにした。

 

 

……(ゴクリ)

 

 

コンコン

 

 

……。

 

 

返事がない。

 

しかし、相手は息を殺して潜んでいるだけかもしれない。

ドアを開けた瞬間「わっ!」なんてされたら、便意性のない大人の僕でも素直に失禁だ。

 

でもこのままではいけない。

思い切って、細い物を使って鍵を外から開ける。

 

カチ

 

そしてドアを恐る恐る開けてみた。

 

 

……(ゴクリ)

 

 

スー

 

 

……。

 

 

誰もいない。

 

よかった、おっさんはいなかった。

 

と安心したと同時に、僕に一抹の不安が過ぎる。

 

誰もいないってことは、じゃあ

 

 

 

 

幽霊?

 

 

 

 

これが俗に言う「心霊体験」ってやつなのか?

そう思ったら、急に背筋がゾゾゾッとして、鳥肌が立った。

 

まさにここにさっきまで幽霊がいたのかもしれない。

いや、なんなら今もここにいるのかもしれない。

 

背筋が凍る思いをしながらも、僕の便意の催しはその場で盛大に開かれた。

その催しの参加者は、さしずめ僕と幽霊だ。

隣に立って見てるかもしれない。

そう思ったら、怖くて恥ずかしかった。

 

そうして用を済ませた僕は、その日一日ゾワゾワした気持ちでソワソワする。

いつもは気になる隣人の生活音が、この日ほど安心したことはない。

 

僕は一人じゃない。

 

ありがとう。

 

神よ(なんで

 

これが僕の最初で最後の恐怖体験。

 

なお、後日の検証の結果、トイレの電球を換えて出るときに、脚立をドアにぶつけた拍子に鍵が掛かり、それに気付かないままドアを閉めてしまったのであろう、という結論に至った。

本当のところはわからないが、きっとそうであってほしいと願う。

 

オバケなんかいないのである。

 

そう信じているのである。

 

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